生きていく場所
――――ピンポーン
俺はドアの前に立ち、腕時計で時間を確認してからチャイムを押した。
「はい?」
返事と共にドアが開き、この家の犬であるロイが出てきた。
「なっ…なんで?」
ロイは俺を見たとたん表情を強張らせフラフラと後ずさった。
「やあルイス。もうそんな時間だったかい?」
奥の部屋からこの家の主人が顔を見せ、ロイの後ろに立った。
「なんでだよ! 俺はイヤだからな!」
肩に乗せられた手を振り払うと、ロイは一気に階段を駆け上がり二階の部屋に逃げ込んだ。
「怖がると思って調教の事を言ってなかったんだよ」
主人は軽く肩をすくめると、やれやれといった感じで俺にカギを差し出した。
「えーっと、あの…仔犬じゃないですよね?」
「あぁ、もちろん審査には合格してる。ただ担当がJCだったから、彼が辞めるとわかって最後バタバタと仕上げて、なんとかパスさせたって感じだか
ら、中身はまだ仔犬みたいなものなんだ」
「あ〜なるほど」
俺は主人からロイが逃げ込んだ部屋のカギを受け取り、ゆっくり階段へ向かう。
「僕は下で待ってるよ」
主人はそう言うとリビングに戻って行った。
――――トントン…
俺は部屋の前でいちようノックし、中のロイに言葉をかける。
「ロイ。JCに代わって担当になったルイスだ。この部屋のカギは預かったので簡単に中に入れるんだが、出来れば自分で出て来てくれると助かる」
「いやだ」
扉にもたれているようで、小さな声だったがちゃんと聞こえた。
「どうせ逃げられないんだ。抵抗して無駄な体力を使うより、素直に出てきた方が賢いんじゃないか?」
「俺は合格したんだ!もう調教の必要はない!」
拳で扉を叩いたのか、ドンと大きな音がした。
「今日のは成犬審査に合格する為の調教じゃない。お前は自分の立場がわかってるか?ただセックスが出来ればいいだけじゃない。主人に飽きられれば
ここには居られないんだ。犬であるお前は、主人に気に入られるように覚えなければいけない事がまだたくさんある。捨てられたら終わりなんだぞ」
「……」
俺の話でロイが黙り込んだのがわかった。
「主人が待ってる。とにかくここを開けて出て来い」
「いやだ‥」
その声に最初ほどの力はなかった。
「では仕方ない。カギを使って開けるぞ」
「ダメだ! やめろ!」
カギを差し込みロックは解除したが、中からノブを握っているようで回らない。
「ロイ、無駄な事はやめろ。どうせ逃げられないんだ」
「いやだ」
ガチャガチャと何度か試しているうちにノブが回ってドアが開き、力勝負は俺が勝った。
「入って来るな!」
「頼むから手こずらせないでくれ」
俺の侵入にロイは慌てて部屋の隅へと逃げ、今度は手当たりしだいに近くにある物を投げ始めた。
「来るな! あっち行け!」
「こら、やめろ。投げるな」
飛んでくる本や時計などを避けながら、俺はロイにドンドン近づいて行く。
「何かあったのか?」
階段の下から主人の声がした。
「いえ、大丈夫です」
俺はロイから目を離さず大きな声で主人に答えた。
「いやだ。お前なんか嫌いだ」
「嫌いで結構。はい捕獲」
投げる物がなくなり、最後は小さく蹲ったロイを肩に担ぎ上げた。
「下ろせ! イヤだ。調教なんか受けない」
「はいはい、わかったよ」
ジタバタと暴れるロイを抱えたまま、俺は階段を降りる。
「すごい騒ぎだったね」
主人は階段の下で俺に担がれたロイを見て楽しそうに笑った。
「このままバスルームをお借りします」
「あぁ、そうしてくれ」
「うわぁぁ――!! 絶対やだ!! 下ろせ! 俺に触るな!」
バスルームと聞いて何をされるか察しがついたのだろう。ロイがさらに暴れだした。
「ちょっとじっとしてくれ。落として怪我でもさせたら大変だ」
「だったら下ろせ! 下ろせってば!」
「せっかく捕まえたのに、下ろしたら逃げられるだろうが」
俺はロイを確保したままバスルームへと移動した。
JCから引き継ぐ際、特に問題があるような事は聞いてなかったのに、まさかドムスでの調教でこんな手こずるとは思わなかった。
俺は脱衣所の床にロイを押さえ込むと、素早く両手首に枷を付けた。
「やめろ! イヤだ!」
「シャツは…そのままで仕方ないな」
手早く下半身だけ脱がせると、また担ぎ上げて浴室に入り、天井からのフックに枷の鎖を繋いだ。
「頼む…いやだ」
最初は「ぶっ飛ばしてやる」だの「外せこの野郎」だの強気な発言をしていたが、俺がシャツの袖口とズボンの裾を折り返りたり、シャワーのノズル
を取り替えてお湯の温度調節をしたりと、準備を進めるにつれ段々と口数が少なくなり、次第にその態度は弱気なものへと変わっていった。
「本当に洗腸は苦手なんだ」
「まぁ犬の中にこれが得意な奴はあまり居ないだろうな。好きなのは一部の健康マニアが変態ぐらいだろう」
「だったら、頼むからやめてくれ」
「そうはいかない。主人がスカ好きならともかく、そうじゃないなら主人のペニスをクソまみれにする訳にはいかない」
「……」
ロイのシャツのボタンを外し、手首の枷の所まで上げてグルグル巻きつけると、現れた背中一面に火傷の痕があった。ケロイドの様子からすると随分
と前のもののようで、おそらくヴィラでついたものではない。デコボコと隆起したその痕は、まるでそこに生えていた羽を無理やり毟り取られたかのよ
うに見え、その痛々しい姿に俺は見入ってしまった。
当のロイはそれ所じゃないのか何も言葉を発しないので、俺も火傷の事に触れずボディーソープで全身を洗う。
「んっ!! やだ」
たっぷり泡のついた指をアナルに挿入すると、ロイの腰が左右に逃げる。
「少し解しておかないと、これじゃノズルも入らない」
緊張の為に強張った入り口は、指一本でもかなりキツイ。
「い゛っ!! …うっ……」
これからする行為に恐怖を感じている事が、この狭い入り口からも伺える。
「ほら、もっと力を抜いてリラックスするんだ」
手っ取り早く前立腺をマッサージすると、力が抜ける体にロイは悔しそうに唇を噛んだ。
「はぁ…ぁ… やっ…」
入り口の抵抗がだいぶ和らいだ所でクネクネと動く腰を横から抱え込みノズルを挿入した。
「う゛っ!…あぁ……」
2階での確保までの暴れようから、洗腸の間もかなり大騒ぎするのだろうと思っていたら、意外にもロイは事が始まると驚くほど静かになった。時々
苦しそうな声を漏らすだけで、きつく目を閉じ事に耐えていた。
「あと少しだ、頑張れ」
奥まで届いたお湯が腸の蠕動運動で時間差で出てくる。その様子を確認しながら最後まで排出が終わるのを待った。
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